【前回の記事を読む】これでもか、これでもかと辛い現実は牙を剝いてかかってきて――心を揺さぶられ荒れる姿は痛々しくて悲しい…

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友情の芽生え

だいちゃんがいろんな経験を経て、平良先生という師と、野球という打ち込めるものにやっと出会えて、僕は心の底から嬉しかった。

だから、織田先輩の話ばかりするだいちゃんにふと感じた嫌な思いを、僕は意識して打ち消した。

大丈夫、何も心配することなんてないんだ。このまま怪我にも気をつけて順調に進んでいけば、来年にはだいちゃんは野球部の部長になってチームの皆を引っ張っていくだろう、大丈夫、って。

この時僕が、だいちゃんは大丈夫、と意識して思わなければいられなかった理由は今でもわからない。何かの予感を感じていたのだとしても、そうではなかったとしても、結果は何も変わらなかった。

それくらい、僕には何の力もなかった。苦しんでいるだいちゃんに、僕は何もしてあげられなかった。

本当に何も。

試練と寂寞

その年の夏は、蝉の鳴き声がいやにしつこく耳についた夏だった。

夏休みが終わり新学期が始まっても、陽射しは衰える気配を見せずに、容赦なくグラウンドを駆ける僕らの身体を照らしていた。百メートルを一本走るごとに大量の汗が噴き出す。

呼吸を整えるふりをして、僕は野球部員の練習している方に視線を向けた。こんなに暑いのに、だいちゃんは今日一日ずっと球を投げていた。あんな無茶な練習をして、肩が壊れないか心配だった。

滝沢の指示に違いないと思うと、無性に腹が立って仕方がなかった。滝沢はもともと副顧問の、それまでほとんど野球部に何の役にも立っていないような教師だった。