小竹はバツの悪い顔をしながらぼそぼそとそんなことを言って逃げていった。同僚の教師同士の間ではお互いに遠慮があるのか、意見をはさまないのが暗黙のルールなのか、感心するほど見て見ぬ振りが上手だった。
だけど、そんなくだらないことなんて知るか。大人の嫌な部分を見せられた気がして、教師なんてクソだ、逃げていく小竹の背中を見ながら、僕は普段言わないような汚い言葉を吐いた。
誰が見ても滝沢のだいちゃんへの扱いはひどい。他の部員や先生だって気付いていないはずはないのに、でも誰も何も言えないなんて、こんな理不尽なことはないと思った。
だいちゃんが文句も言わずに黙々と滝沢の出すメニューをこなしているから、よけいに悔しかった。
いつもグラウンドいっぱいに駆け回っていただいちゃん。広いグラウンドが小さく見えるくらい、ここはだいちゃんの存在感で溢れていた。
平良先生のいた頃の野球部は明るくて、時々笑い声が聞こえて、その中心にはいつもだいちゃんがいた。
別人みたいに陰のあるだいちゃんの姿を見るのが、僕は辛かった。だいちゃんが必要とする大切な人は、どうしてみんな、だいちゃんの側からいなくなってしまうんだろう。
そして、どうして僕は、いつもそんなだいちゃんを側で見ているだけしか出来ないんだろう。
苦しい状況にいる友人になす術もない非力な十三歳の僕は、容赦なく降ってくる残酷なだいちゃんの現実に心を蝕まれていた。
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