第一部 佐伯俊夫

第二章 進展

「佐伯さん、トパーズっていう宝石を知っている?」

「トパーズ? トパーズってあの黄色っぽい石ですよね。確か十一月か十二月の誕生石ではなかったかな?」

「あら、よくご存じなのね」

もしかして彼女が十一月生まれ?と、冗談まじりにからかいながら、

「トパーズは主にブラジルやロシア、タイやカンボジアで採取されているのだけれど、実はこの日本でもかなり産出されていたの。トパーズというと薄い黄褐色の琥珀っぽい色のものが有名でしょう? だから和名を黄玉(おうぎょく)というのだけれど、西洋の鉱石学が伝わるまでは黄玉と水晶(すいしょう)を区別していなかったのね。

古書によると、明治の初めに高木(たかぎ)なんとかいう人が、岐阜の山奥でこの石の細長い結晶を発見したのが日本でトパーズが見つかった最初と言われている。

でも後日調べてみると、この時発見されたのは黄玉というよりベリルと呼ばれる緑柱石(りょくちゅうせき)の方により特徴が近かった。だから高木翁(おう)が見つけたものが黄玉だったのかどうか、本当のところはわからないとも言われているの。でもね……」

田沼さんは声をひそめて私の耳元にささやくように、

「ここ月ノ石でも昔、黄玉が見つかったという噂があるのよ」