「何ですって」

思わず声を出しそうになった私の口元に、田沼さんは「しぃ~っ」と人差し指を立てて制し、

「月ノ石という地名もどうやらそこから来ているらしいのよ。トパーズが実際に出たという話は聞かないから、今の段階ではよくある都市伝説の一種みたいな位置づけだけど」

なるほど、トパーズの透明な薄い黄色の光は空に輝く月の色に似ていると言えなくもありません。黄玉を「月から来た石」に見立ててこの地を名付けた人の気持ちが私には理解できる気がしました。

「その伝説を頼りに、一獲千金を夢見てこの月ノ石ににわかハンターが殺到した時代もあったようなの。アメリカのゴールドラッシュみたいにね。トパーズには富や繁栄の意味があるから余計に」

「そうなんですか」

大同石材がいまだにこんな寂れた場所に営業所を置いているのは、ひょっとするとその伝説のせいもあるのだろうか。大同石材の創業者も案外その黄玉ハンターの一人だったのかもしれないと、私は思ったりしました。

「だから」

田沼さんはさらに声のトーンを落として言いました。

「佐伯さんもトパーズ探しをしてみたらどうかしら」

驚く私に、

「もちろん、そんなあるかないかもわからない宝石探しに社運を賭けろと言っているわけじゃないのよ。普通に仕事を進めつつ、トパーズの可能性も捨てないで二本立てで行くの。今は人員も増えたことだし」

田沼さんはそう言って小出美夜子の方をちらりと見やりました。