「トパーズの名前の由来には諸説あって、サンスクリット語で火という意味の《タパス》が語源であるという説や、インドで火の石と呼ばれていたからだという説もある。でも一番素敵なのは、紅海に浮かぶゼバーゲット島の話。
この島では古代エジプト王朝の時代からトパーズの採取が盛んだったのだけれど、地形的に霧が深くて探すのがとても大変だったらしいの。それで霧の中を《探し求める》という意味の《トパゾス》がトパーズの語源になったという説よ。ね、なんかロマンチックでしょう?」
もしトパーズ発見とでもなったら、受注先の仕事の成功のみならず、一躍社会の注目の的になり、大金持ちになれる……この月ノ石の町興(まちおこ)しにだって多大な貢献ができるのです。
「どう? 徳川埋蔵金か、豊臣家の財宝探しみたいにワクワクしてこない?」
田沼さんは悪戯っぽく笑って私の席を離れました。
この月ノ石にそんな伝説があったとは驚きです。例の《聖月夜》の作者・留萌雅也がこの地を何らかの取材のために訪れたのも、その伝説の検証だったのだろうか?
複雑に絡み合ったいろいろな色や太さの糸が急速にほどけ、雅楽の激しい音響とともに本来の姿を現わそうと乱舞を始めているのが見えるようで、私は思わず身震いしました。
「とまあ、話の前半はこのような感じなのですが」
黛耕一郎(まゆずみこういちろう)はボイスレコーダーの再生をいったん終了させてから、おもむろにテーブルを挟んで正面に座っている帝徳大学(ていとくだいがく)文学部教授・播磨道人(はりまみちひと)の顔を見た。
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