まず中国の史書については、二つの理由から高い信頼性を期待して良いと思う。古代中華民は漢字という道具を発明した。その端緒は亀甲や獣骨を焼き、生じる裂け目から天命、神意を読み取るぼく(占い)である。

戦のまえに神に戦う意味を問い、必勝を祈念したと言われている。裂け目のパターンを符号化したものが甲骨文字として知られた最初の漢字である。その後字形の変遷を経て現在に至っている。

卜(占い)に由来し超自然的な力、神聖な意味を文字が秘めていると、古代の人々は考えていただろう。それを偽りの記述の道具として用いることには大きな抵抗があったはずだ。

中華の帝国の日々を記録する役目を持つ「史官」は、偽りの記述を強要された時、死をもって抵抗する者もいたと伝えられている。

時代が進むにつれて宗教的色彩は薄まり、現代では嘘偽りを平然と記すことが横行していることを考えると、古い時代の史書ほど信頼性が高いと思える。

古代中国の記録に信頼をよせるもう一つの理由に、古代中華民の無類の記録好きが挙げられる。黄河文明が現代にも影響を及ぼす分野がいくつかある。前述した卜易(えき)は生活に不可欠ではないにしろ、現代生活に吉日選びや占い遊びの形で残っている。

科学的に意義を認められる分野に、鍼灸術 (しんきゅうじゅつ)や本草学がある。鍼(はり)や灸の施術の有効性は現代医学でも認めるところである。