「確かにそうだわね。母は必死で働いて私を育て、短大まで行かせてくれたの。でもそれまでの無理が身体を蝕んでいたのね。私が短大を卒業して就職した頃から、具合が悪くなって、二年前にあっさりと逝ってしまったの。で、結局私も母と同じ道をたどろうとしていたのよね」
幸はそう言ってため息をついた。
「ふーん、悲しいですわね、サチ」
クリスチーヌは涙ぐんだ。
「彼が月に一度か二度、気が向いた時に私のアパートに寄ってくれればそれで満足と思うように努力していたのよ。そう簡単なことではなかったけどね。クリスチーヌ」
「そう簡単なことではございませんわよ」
毎日会社では会えるが、その時は単なる上司と部下であり、全くの仕事の関係を装っていた。
「彼が私のアパートに来た瞬間は、私はたわいもない出来事を喜々としてしゃべって、彼は飲みながらそれをじっと聞いてるの。いや、聞き流していたのかも知れない。だけど時計の針は残酷なのよね。
淡々と時を刻んでいく。そうして別れの恐怖が襲ってきて、私は急にしゃべれなくなってしまうの。不機嫌ととられるのもいやなので無理に明るく振舞おうとするけど、態度が不自然になるのよ」
彼の腕時計が止まってくれないかと願う時だ。
「わかる、わかる、モア オシ(私もよ)」クリスチーヌが頷いた。
そして別れの時が否応なくやって来る。
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