其の弐

ようやく目覚め始めた街を尻目に、トラックは一路北へと針路を取った。左手にはまだ雪の残る北アルプスが見え、右手にも山が迫っていた。北へ向かうに連れて野面が細く長くなっていく。

骸骨は窓に齧りついてその風景に見入っていた。点在する農家、一面の畑、農耕機と働く人々の姿、それらはかつて骸骨の知らなかったものなのである。

「お前、変わってんな、そんなに田畑が珍しいかぁ」

正太は振動に合わせて身体を跳ねらせながら、そう訊いた。骸骨は背中を見せたまま、こくりと頷く。そんな様子に彼は微苦笑を浮かべていた。

いい相棒が見つかった。正太はそう思っていた。何か深い事情がありそうだけれど、骸骨が嫌だと言わない限りずっと一緒に働いてもいいと思っていた。トラックは湖の脇を抜けると、小さな峠に差しかかった。

「なあ、名前、まだ訊いてなかったよなぁ」

骸骨は肩をぴくりと震わせると、ゆっくりと正太の方へ向き直った。

「言いたくなきゃ、いいけどよ。でも名なしの権兵衛さんじゃ、俺も困るし」

トラックはトンネルに入った。一瞬目の前が真っ暗になり、轟音が壁を跳ね返って伝わってきた。だがトンネルは長くもなかった。路は緩やかな下り坂に変わった。

「豊、河‥‥悦司」

骸骨はぽつりと口にした。

「えっ?」

よく聞こえなかったらしく、耳に手を当てている。

「豊河‥‥悦司デス」