ただ、それは旅館を再建することとは限らない。勿論、六代続いた伝統あるこの旅館を絶やしてしまうことは何より忍びない。しかし、再建には多額の資金が必要で、借金すれば父さんたちの代だけでは返せない。
だから、茜屋を再建するか、それとも廃業するか。この際、おまえたちの正直な気持ちを聞かせてほしいんだ」
「お父さんたちは今、社長として女将として、どう考えてるの? まず僕は、それをちゃんと聞いておきたい」
普段は鷹揚な久紀が、この日は長男の自覚からか最初に口を開いたことに、高志たちは驚かされた。
「お父さんもお母さんも、強い気持ちで再建したいと思っている。何故なら、六代続いた茜屋は既に我々の人生になっているからだ。そして誤解を恐れずに言えば、あわら温泉のためにも茜屋の再建は必要だと信じている。
全国のお客様から毎日のように激励の声が届いているし、地元の皆さんも応援と期待をしてくださっている。それこそが茜屋の存在価値を示していると思う。
裕次郎さんから先代がいただいた金メダルは、残念ながら火災の熱で溶けてしまったが、先々代が遺した茜屋の魂である看板が奇跡的に残ったのは、おじい様たちがガンバレと言っているように思えてならない」
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次回更新は9月19日(木)、18時の予定です。