あわら温泉物語
「もう一つのシンボルの椎の木が残ったのも、私には偶然だとは思えないわ……。私もお父さんと一緒に茜屋を是非再建したいの!」
「しかし、だからといって、イザとなったら人様に甘える訳にはいかないし、再建は家族一丸とならないと到底実現できない大事業だ。それでも、おまえたちが心から賛成してくれるなら、お父さんもお母さんももう一度死ぬ気で苦難に立ち向かいたい!」
子供たちは、両親の強い決意と覚悟を重く受け止め、噛み締めるように押し黙っている。それがこの問題の重みを如実に表してもいた。
しっかり者で子供達のリーダーでもある有衣が、兄弟の表情を確認した上で、総意を代弁するように沈黙を破った。
「火事の直後からお父さんやお母さんの再建の決意は感じていたわ。私も是非再建してほしい。私たち家族皆で応援するから、新しい茜屋を作ろう!」
言いながら自らの言葉の重さに反応して有衣の目からはどっと涙が溢れ出す。
「先祖代々守ってきた茜屋は、僕ら家族のアイデンティティ。今失ってみて、味わったことのない喪失感を感じているんだ……。僕は、茜屋を皆で取り戻したい。……僕は長男として必ず七代目を継ぎます! だから、皆で再建しよう!」
久紀の目にも涙が溜まっている。実桜は話す前から泣きだし、自分も旅館業を手伝いたいと臆病さを乗り越えて言い切った。いつもは物怖じしない航也の手も、小刻みに震えている。
一気に堰を切ったように、子供たちが前向きな意見を言ったことに知世は驚き、感激のあまり涙ぐむ。
「あなたたち、そんなふうに思っていてくれたの? 有難う……」
「そうか、有難う。おまえたちの気持ちは嬉しいよ。おじい様もお父様たちもきっと喜んでくれているだろう」
高志も目に涙を浮かべて続けた。
「だけど資金返済は茨の道だぞ。決して生易しいものではない。それでもいいんだな?」