あわら温泉物語

キラキラした陽光の中、沖村夫妻が新しい旅館の設計について考えており、特に数日前に知人の紹介で二人で見学した「日華化学」の建物について話した。

「日華化学」は福井県を代表する化学会社で、そこに最近建てられたニッカ・イノベーションセンターに魅了されたのだ。設計したのは小堀哲夫という新進気鋭の建築家で、その建物で日本建築大賞を受賞していた。

「あれは光と風と地下水などの自然を活かした素晴らしい建物だった。次の茜屋の設計にとってもイメージが湧くもので、興味深かった。だから一度、小堀先生とお会いしたいと思うんだけど、どうかな?」

「そうね。私もとても感心したわ。一度お会いしてお話ししましょう」

「じゃあ、早速、アポを取ってみるよ」

それから一週間後、高志と知世は連れだって上京し、小堀のオフィスで面談をした。

「日華イノベーションセンターをご覧になったそうで光栄です。江守社長から伺いましたが、火災のこと心よりお見舞い申し上げます」

「有難うございます。あの建物には自然が多く活かされていて、私たちが新館に追い求める『光と風』というコンセプトに凄くマッチすると感じたんです」

「あの外観は福井の繊維産業を代表する羽二重織をイメージして考えました。また、天井から自然光を多く取り入れる工夫をしながら、外気を取り入れ、テーブルや什器などには県産の木材をふんだんに使い、自然を感じる建物にしました」