彼らの出会いは十五年前。沖村夫妻が茜屋でプロによる音楽会や落語会がやりたくて、その出演者を紹介してもらったのがご縁の始まりだった。

そこから山崎夫妻の有機無農薬農業にこだわった本物の食材作りに惹かれた高志は、ここの卵や野菜などを茜屋の料理に取り入れるようになっていた。

茜屋の火事のことを山崎夫妻も衝撃的な出来事としてともに心を痛めており、何か少しでもできる手助けはないものかと日夜考え続けていたところだった。

そんな時、東京のライブハウスの主人で、山崎とともに茜屋に幾度となくアーティストを紹介してくれた横田義彰から「茜屋を応援するチャリティーコンサートを一緒にやろう」という話が舞い込んだのだ。

そこで、友人の陶芸家である大森正人や音響に詳しい浜田剛と相談して四人で実行委員会を組み、計画を練り始めた。

思い付いてからの行動は速かった。すぐに、茜屋で演奏した経験のある音楽家に連絡を取る一方で、地元の音楽愛好家にも声を掛けて出演を依頼した。

すると結果、何と十一組の演奏者が喜んで集まってくれた。決行は八月五日午後一時。計画から一か月半後のことだった。善意の掛け算のスピードを目の当たりにして、人の世もまだ捨てたものじゃないと実行委員たちは感心した。

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次回更新は9月23日(月)、18時の予定です。

 

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