「はい。それも含めて、僕は後継者として引き受ける覚悟はできています!」

久紀は目力強く答えた。

「よく言った。それでこそ跡継ぎだ! これで決まりだな。皆で再建に立ち向かうぞ! もう後戻りはできない。前へ進むだけだ!」

こうして、沖村家の家族の思いは再建に向けて一つになった。高志と知世、そして子供たちにとっても、家族の絆を強めた一生忘れられない夜、いや忘れてはならない夜となった。

火災当日、野中は高志たちを見舞っていた。そして、あわら温泉のシンボル的存在である茜屋、それを復興させるために動かなくては、と覚悟を決めた。

連休明けから動き始め、何人かの旧知の国会議員を通じて「国の有形文化財が焼失した際に使える再建援助制度がないか」と必死に探してみたが、残念ながら結果的に適当な制度を見つけることはできなかった。

次に野中は高志に、「再建を支援するクラウドファンディングの可能性を模索してみよう」と提案した。茜屋の資金的負担を少しでも軽減したかったからだ。

そして様々な機関を調べて高志と協議した結果、まずは地元の金融機関を最優先にできる限りの資金づくりを進め、それでも不十分な場合にクラウドファンディングを試みるという二段構えで臨むことにした。

併せて、若い頃からの付き合いである福井県民放送の池ノ内和彦社長に「茜屋の火災から再建までの映像を撮り貯めした『特別番組』を制作し、再オープン時に放送してほしい」と懇願して、再開後のスタートダッシュも見据えていた。

しかし、資金繰りの心配をよそに地元金融機関も迅速だった。茜屋のメインバンクである福井銀行は、火災後いち早く頭取が芦原支店に自ら出向き、支店長の長谷川慎治とともに高志、久紀と面談した。このようなことは異例中の異例だった。

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次回更新は9月20日(金)、18時の予定です。

 

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