あわら温泉物語
あわらには温かい人たちがこんなにもいてくれる。二人は心強く感じ、何度もお礼を言った。高志と知世は同様にあわら温泉にある全旅館を回った。どこも、
「家族や社員の皆さんは大丈夫か?」
「何かできることがあったらいつでも言ってね」
「やっぱり、茜屋さんがなくなったら、あわら温泉は絶対あかんよ。もう一辺頑張ってや」
と気遣いと労いと激励の混じった温かい言葉を掛けてくれた。
高志と知世は、お詫び行脚の一日の間に周囲の思いや自分たちに対する生の声を聞くことができ、胸の芯から力が湧いてくるのを感じていた。
旅館は全焼してしまい、無論通常の営業はできないが、火災の後始末や今後の従業員たちの処遇、何らかの売上創出などに向けて、事務所が必要だ。
二人は、沖村家から数百メートル離れた空き家を借りて、簡素な玄関ドアに「茜屋臨時事務所」の看板を掛けた。事務所の奥の壁には、焼け出された「茜屋の看板」が掛けられている。
「他の旅館や商店への延焼もなく犠牲者がいなかったのは、不幸中の幸いだった。感謝しなくてはな」
「そうね。それだけは取り返しが付かないものね。何かのご加護を感じるわ……」
知世はしみじみと目をつむった。
「ところで、一番重要な問題は、この茜屋を再建するかどうかだ。あれからずっと考えてきたが、やはり資金の問題が大きくて悩ましい……」