ソ連侵攻と同時に、この満州から全ての法と秩序が消えてなくなる。そこに、その連中が重装備とともに怒とうのごとく流れ込んで来るんだ。そして、お前達が知っている通り、実は、満州に、関東軍の兵力は、もうほとんど残っていない」
腕を組んだままのアイザックは考え込むようにテラスの方に目を向けた。
「これまで、おとなしくしていた中共軍やら匪賊も日本人への復讐を始めるだろうな」
エドゥゲーフは、雪舟の顔を見た。
雪舟は、コップをソファテーブルに置いた。コンッという音が響いた。
「この満州が地獄に変わる」
八月七日 午後三時四十分頃 ハルビン キタイスカヤ 喫茶店マルス
喫茶店マルスの入口を入ったところにハル達は立ち尽くしていた。
そこには、とりどりの種類のチョコレートが並んだガラスケースがあった。
カカオとコーヒー豆の香ばしい香りが辺り一面に立ち込めている。
ナツは、一歩進み出て腰を曲げ、至近距離からガラスケースの中を覗き込んだ。
「素敵!」
ナツの肩越しに覗くハル。
「おいしそうねえ!」
ナツの顔の下では、アキオがガラスにへばりついていた。
「わぁ!」
フユも唾をごくりと飲み込んだようだった。
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