その二人の必死な姿を見ながら野中は思い出していた。自分は、誰が見ていなくても自分の信念に恥じない議員になろう。自分の保身は一切考えず、常に県民に誠実であり続ける政治家になろう、と誓った初志を。
そしてこれを断ったら、自分は自分を軽蔑するだろうし、「屋台村」の夢も潰えてしまうと判断した。
野中はおもむろに口を開く。
「死んだ親父には怒られるかも知らんけど、可愛い君らのため、愛する地元のためや。他に手はないな。私がなるしか……」
前田は野中の両目をしっかり見つめて、
「なら、先生、連帯保証人になってくださるんですか?」
「ああ、なったる! なったるぞー!」
前田は感激と安堵で涙が噴き出し、止めどなく流れ続けた。美濃屋も緊張の糸が切れて、堰を切ったように涙が迸 (ほとばし) る。二人が何度も「有難うございます」と言いながら深々と頭を下げると、野中は彼らの肩に手を当てて、
「二人とも、メンバーに伝えてくれ。是非いい『屋台村』を作ってくれと。隣には『足湯』を設けるし、芸妓組合の『検番』も温泉文化の担い手として県費で支援する。きっと長く愛される『湯の町広場』になるぞ! だから地元のために最後までやり切ろうな!」
二人は、躊躇なく自己犠牲を決断したその潔さと、地域と自分たち後輩を思う愛情に感動していた。
そして前田は、あの新年会で「あわら温泉全体が生き残ることを考えるべきだ」と語った野中を思い起こし、その言行一致の生き様に触れ、あの時の言葉を何度も反芻(はんすう)するのだった。
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次回更新は9月11日(水)、18時の予定です。