早速、工場長と打合せした。
「2交代制はできそうにないな。残業も遅くまではできそうにないなぁ」
「この前来た警官はせめて10時ぐらいには終わって欲しいようなことを言っていました」
「そうか、10時ね。お隣の家族構成は知っているか」
「老夫婦2人です」
「何歳ぐらいだ」
「80歳をちょっと超えたぐらいだと思います」
「そうか、80歳ね。どうしたらよいと思うか。ここは、早く返事を持って行った方がよいよ。変な団体が嗅ぎつけるとややこしくなるよ」。
松葉は慎重だった。
「部長、10時まで残業して何とか乗り切りましょう」
能率を上げて乗り切ろうと思っているようだった。しかし、それでは労働総時間そのものが足りないように思った。精神力だけではどうしようもない、と松葉は思った。
「80歳を過ぎていると言ったよな。多分、朝は5時には起きておられるはずだ。始業時間を6時にして、交代制にしたらどうだ。2時間は時間を稼げるよ」と松葉が言うと、工場長は間髪入れずに「そうですね。6時からならよいでしょう。社員も協力してくれるでしょうから」と、応じた。
「よし! 工場長、明日と言ったけど早い方がよいだろう。すぐ役場に行ってくれ。お隣は相当苛立っていると思うよ。始業は6時、終業は10時でお願いできないか、相談に行ってくれ。あくまでも相談に伺った、と言うのだよ」
「分かりました。今から役場に行ってきます」と工場長は出かけた。
松葉は、1人でお隣に菓子折を持ってお詫びに行った。今まで挨拶どころか会ったこともなかった。お隣とは初対面である。こんなことなら、お隣が新築されたとき、挨拶に行っておけばよかった、と大いに悔やんだ。
尤もその頃は、あとからやってきた者が挨拶に来るのが当然だ、と正直なところ思っていた。今にしてみれば反省しきりだ。
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次回更新は9月7日(土)、8時の予定です。