「実は課長、今の建築関連の鋳物のマーケットを見てみますと、まだまだ伸び代があります。いや、今からの製品だと思っています。また、今まで皆さんが見たことのない新製品も開発しました。早晩2号機を入れることになると思っています。次の2号機は課長の言われる5千6百万円で買いましょう。お約束します。この通りです」
松葉は、両手をテーブルについて頭を下げた。
「分かりました。部長さんのおっしゃる価格で社内を通しましょう」
課長は、自信に満ちた笑顔で応えた。課長になって何も変わってないと言ったけど、やはり、権限を自分で勝ち取っている実力課長だな、と松葉は頼もしく思った。
松葉は、手を差し伸べ、握手を求めて言った。
「ありがとうございます。責任を持ってお約束します。ここに証人として工場長も連れてきています」
「感謝を込めて、今度は焼酎で乾杯しましょう。工場長乾杯の音頭を」
工場長は、料亭全部に轟き渡るような大声で音頭を取った。座は大いに盛り上がった。松葉は、8百万円の純利益を得たのと同然だ、と思ったのか、上機嫌だった。
2か月ほど経って、設備の設置が終わり、試運転が始まった。
20分サイクルで砂型ができてきた。検収も滞りなく終わった。松葉は、設備設置工事の責任者にお礼を言って、営業課長にもよろしく伝えて下さい、とお願いした。
次の日から通常運転が始まった。
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次回更新は9月6日(金)、8時の予定です。