乾杯のあと、世間話、そして鋳物業界の動向など和やかに話が弾んだ。また、課長になって何が変わったか、どう変わったかを聞いてみたが、何も変わらない、課長手当が付いたぐらいかなぁ、と言う。
そうすると、課長には価格の決定権はないということか、と松葉はちょっと失望した。頃合いを見て、松葉は切り出した。
「課長、自動化の価格ですけど、もう少し安くなりませんか。4千4百万円も出す金はないですよ。貧乏会社ですから」
課長が笑って言った。
「こんなことを聞いたことがあります。本当の金持ちは、金がない、金がないと言うそうです。金のない人は持っている振りをするそうです。部長さんはその典型ではないですか」と言って、大笑いをした。
脇の女将も大きな口開けて馬鹿笑いをしている。このアホ !と、目で怒鳴ってみたが、分かっていない。
「いや、本当にないのですよ。今3千6百万円は用意しています。これでお願いします。キャッシュで買います」
「リースをお使いになったらどうでしょうか」
「いや、リースは嫌いです。リース会社の儲け分は、結局高いものを買わされたことになるのですよね。過去にも1回も使ったことはありません。経費で落ちるといいますが、所詮借金です。借金はしたくないのです」
これは、私の考え方ですが、と言ってから、次の条件を出してみた。