第二章 聖地の風に吹かれて

これって本当に聖地?

しかし、タクシーが止まったところは、意外にも人のあふれる商店街のような場所だった。きっとここから、かなり歩いていかなければ聖地に辿り着けないのだろう。

覚悟してタクシーを降りる。すると、もう目の前にストゥーパが見えているではないか。「ええ、うそでしょ」と思いながら進むと、あっという間にストゥーパの周りを歩いていた。ここにもたくさんの店が立ち並ぶ。右回りに一周したが、聖地というより繁華街といった印象が強い。

興ざめしたのはこれだけではない。袈裟姿のラマ僧たちの足元がスニーカーであったり、あげくの果てには、缶入りの炭酸飲料を飲みながら歩いていたりする。想像していた聖地とはかけ離れた光景が目の前に広がっていた。

スニーカー、缶飲料に限らず、ラマ僧になるために修行している少年たちの中には、ストゥーパの周りで食べ歩きしている集団もいる。自分の描いていたラマ僧の修行のイメージとの落差に改めて驚く。

すっかり観光地と化したところにあって、こうなってしまうのも無理はないか。彼らとて、今を生きる若者なのだ。

そんな気持ちをよそに、ストゥーパの圧倒的な存在感は目を見張るものだった。ネパール最大というだけあって、高さが三六メートル、台座の直径は一〇〇メートルにも及ぶという。

しかも台座は三層からなり、半円球の白いドームがかなり高い位置にある。階段を上って台座の高い層の上を歩いている人たちも見える。台座の外側には、周りを囲む城壁のような白い壁があり、四つか五つずつのマニ車がぐるっと一周、一定間隔で備え付けられている。その数は計り知れない。

この巨大なストゥーパにも、四方を見渡すブッダの目があった。スワヤンブナートよりも大きく見開いた目は、瞳孔が大きく描かれている。力強さとかわいさが共存するまなざしだ。

これに比べると、スワヤンブナートのまなざしは、きりっとした細い目でちょっと怖いくらいの威厳があった。目だけでも、こんなに印象が変わるものなのかと感慨深い。塔頂に向かう一三の段階を表す部分は階段状になっており、黄金の輝きを放っていた。

塔頂からはタルチョという五色の旗が数え切れないほど四方八方に向かって掲げられている。その本数は、スワヤンブナートの比ではないくらい多かった。白と黄金のストゥーパと五色の旗、すべてが青空に映えて美しい。