工場を見て、応接室に帰ってきた課長は、
「お忙しいみたいですね。一目で分かります」
「お恥ずかしい。整理整頓が徹底してなくて。ハッ、ハッハ」と松葉は笑ってごまかした。
「ところで、電話でお話しした通り自動機を導入したいと思っています。もう相当、導入したところが増えたでしょう」と松葉が尋ねると、課長は得意げに応えた。
「お蔭様で、全国で120件になります。殆ど自動機をご購入頂きました」
「なるほど、その実績で課長に推薦されたのですね。最初お会いしたときから、やり手の方だなぁ、と思っていましたよ。今ではスーパー営業マンといわれているのではないですか」。
松葉の話に、課長はたいへんうれしそうだった。
「今の設備を利用して自動化できますか」松葉は早速本題に入った。
「大丈夫です。松葉部長は価格に厳しい方だから心得ています。少しでも安くご提案できるように考えてきております」
「そうですか、ありがとうございます。幾らぐらいになりますか」
「あのとき、見て頂いた自動機より改良が進んでいまして、たいへん使い勝手が良くなっています。その改良型は、現在5千6百万円で販売されています。その設備と同等品で、5千6百万円から前回ご購入頂いた価格1千2百万円を引いた4千4百万円で如何でしょうか」
「えっ! そんなに高くなるの。参ったなぁ。困った」
1人で呟くように言った。ここでは、課長の返事は待たずに、松葉は時間を置くことにした。高い、安い、の堂々巡りに陥りそうに思ったからだ。
【前回の記事を読む】新しく開発された鋳造機械が欲しい!買い急いでいると悟られぬよう敢えて電話で価格交渉
次回更新は9月5日(木)、8時の予定です。