「社長は顔を見たら、売れ、売れと我々に言っているが、造り切れないじゃないか」と、言っているという。

松葉は、設備メーカーの営業担当者に電話した。

「自動機を導入しようかと思っているので、来て頂けませんか」

「ご連絡頂きありがとうございます。いつがよろしいですか」

元気な声が返ってきた。

「早い方がありがたいですけど」

「分かりました。それでは明後日伺います」

午前中に来社してもらうことを約束して、電話を置いた。約束の日にやって来たその担当者は、松葉の顔を見るなり、「機械は順調に稼働していますか」と満面の笑みを浮かべて聞いてきた。

「お陰様で順調ですよ。ありがとうございます。ところで課長に昇進されたそうですね。

おめでとうございます。今晩は昇進祝いをしましょう」と、有無を言わせないよう、準備は整っていると言った。

「いや、実は今日の羽田行きの最終便を取っているので、失礼させて下さい」

「えっ、名古屋から今朝一番機で来て、明日は朝から東京でお仕事ですか。たいへんですね。ここは一服、焼酎でも飲んで、今晩はゆっくり休んで下さい。明朝一番の便に変更しましょう。明朝、宮崎空港まで送らせますから」

課長は、恐縮です、申し訳ないです、と言いながら一泊することを承諾した。

「お泊り頂くことになってよかったです。これでゆっくりお話を聞くことができます。先ず、工場を見て頂きましょうか」と言って、工場に案内した。