第4章 アルミ鋳物の創業

松葉工業の創業期

ちょうどその頃、新しい鋳造法が開発されたという情報を工業試験場で聞いた。早速、その鋳造機械を見学に行った。

大きくて肉厚の薄いものを造るのに適している製法だという、松葉が考えている製品を造るのに適した機械のようだ。

この製法は特許を取得しているという。機械メーカーにその機械の価格を聞いた。機械本体は5千万円、据付、取付は別途だという。また他に工業実施権を買い取り、毎月ロイヤリティが必要等の説明を聞いた。

松葉には、そんな大金はとても準備できない。社長に報告、相談してみようかとも思ったが、返ってくる言葉は分かっていた。「金があるなら誰でもできるわい」と言うのが社長の口癖だった。

松葉は、金の相談だけはやめとこう、と改めて肝に銘じた。

松葉は、もっと安くならないか、と相談しようかと思ったが、ただ価格を安くしてくれだけの交渉では、1割、精々2割ぐらいしか安くならないだろう。それぐらいの値引きでは、とても買うことはできない。

この設備は、これからの松葉工業のために開発されたみたいなものだ。この設備を買えたら生産も上がるし、品質の向上も図れる。どうにかして買いたい。しかし欲しそうな顔をしてはいけない、買いたい素振りなど決して見せないようにして、その会社をあとにした。

翌日、自社の工場で、しばらく社員の作業を見ていた。ワンサイクル2時間も掛かっている。木型から脱型した砂型を、必ずと言っていいほどヘラを使って手直ししているので、時間が掛かっている。