先方に行くより、電話の方がよいと思った。買い急いでいると悟られたくなかったからだ。松葉は、先日のお礼を言いながら、「とても5千万円という予算はないので、安くなる方法はないですか」と、聞いてみた。

「自動機械を省いて、主要設備だけを購入頂いて、天井クレーンで全て動かす方式でよければ、工業実施権込みで、2千5百万円でよいです」という返事が返ってきた。

「それはワンサイクルどれぐらい掛かりますか」

「90分ぐらい掛かると思います」

「前回、私の見た設備は、1サイクル20分とおっしゃっていましたね。その4倍以上掛かるのですね。もっと安くなりませんか」と松葉は畳み掛けるように聞いた。

「どれぐらいを考えておられますか」

「そうですね。時間が4倍以上掛かる訳ですから、5千万円の4分の1ぐらいでしょう」と松葉は咄嗟に応えたが、無理な金額ではないと思った。

この機械は最近開発されたばかりで、実績があまりない。わが社みたいな中小企業が導入したとなると、宣伝効果は計り知れない。

しかも建築関連の鋳物会社でこの類の機械を導入したところはない、など松葉工業に売り込むメリットを言葉の端々に鏤(ちりば)めながら交渉した。

「分かりました。社内で検討してみます」と後日返事をする、と言って、電話は終わった。

【前回の記事を読む】新しい開発製品にチャレンジ!アルミの壁とアルミサッシを一体化した壁をアルミ鋳物で製造

次回更新は9月4日(水)、8時の予定です。

 

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