田所は立ち上がるとエレベーターに向かって歩き始めた。俺は間髪入れず、田所の背中に向かって人差し指を向けた。上座に座る殿様が笑顔で扇子を扇いでいる姿が見えた。
(これで多分上手くいくだろう)
疲れ切ってソファーにめり込んでいた。
昼休みに屋上のベンチで食堂で買ったサンドウィッチをほお張りながら牛乳を飲んでいると、山沖と川原が二人一緒にやってきた。
「松岡さん、ここにいたんですか? 捜しましたよ」
「社員食堂にいないんですもの。どこに行ったのかと二人で捜したんですよ」
俺の前に立った二人はニコニコしている。
「上手くいったみたいだね」
「はい、びっくりというか、驚きですよ」
「竹村さんの言った通り、松岡さんて奇跡を起こすんですね」
「いや、そんなことじゃないよ。たまたま偶然というか……。まあ、良かったじゃないか」
続きのサンドウィッチにかぶりつきながら二人を見上げていた。竹村がいないのが少し寂しかったが、今日は二人の再出発の日だからこれでいいのだと広がる青空に目を移した。
「ところで、こんなところであれだけど、川原さん。昨日のことだから覚えているよね?」
突然の呼びかけに川原は驚いていたが、すぐに最高潮に顔を赤らめた。思い出した証拠だと思った。俺は意地悪な男なのかなと思ったが、残った牛乳をストローで飲み干して言った。
「川原さん、言ってやってくれないか、山沖に。川原さんの気持ちを。俺と竹村の前ではっきり言ったように。それが、俺のところに来てくれた締めくくりだよ」
川原は赤らんだ顔をしながらかすかに体をよじっていたが、山沖の方を向くと告白した。
「山沖さん、私、山沖さんのことが好きなの。昨日、松岡さんに訊かれて自分の気持ちがはっきりしたんです。私で良かったら……」
川原は涙ぐんでしまって声がフェードアウトしてしまった。山沖は一瞬ぼう然としていたが、すぐにリアクションを起こした。震える手で川原の両手をつかむと、