第二章 怒れる上司と見守るアシスタント

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約束の朝、緊張気味でいつもより早く出社した。川原は竹村と申し合わせていたのか、二人そろって早く来ていた。二人の姿を確認すると、特に声をかけることもなく自分のデスクに向かった。

鞄をデスクの下に置いてイスに座ると、田所とのやり取りを考えていたが、どうせ出たとこ勝負の俺だからとボーッとしていた。

「松岡さん、コーヒーどうぞ。いよいよ決戦ですね」

竹村が不意打ちのように現れて背後からコーヒーカップを机の上に置いた。振り返ると、昨夜の長い髪を結わえ長刀を構えた女武者を思い出させるヘアスタイルの竹村が微笑みながら立っている。思わず、「ワーッ」と声が出そうになった。

「あ、ありがとう。でも、正直に言うけど、緊張してるよ」

自信がないのは毎度のことで、俺の人生そのものがパラサイト的なものだから仕方がない。今まで生き延びてこられたのが不思議というか、奇跡なのかもしれない。

神仙老人に教えを乞えば、(それが背後の憑き物による仕業なのだ)と言うのかもしれない。机に両ひじをついてコーヒーを飲みながらぼんやりと考えていた。

「松岡さんこそ、自信を持って下さいよ。責任があるんですから。山沖さんだけじゃなくて、川原さんだって頼っているんですからね」

竹村はまだお盆を胸に抱えて側に立っていた。俺のしょぼくれた姿勢を見下ろしたいのだろう。激励というよりも、しったに近い語調だった。