タクシードライバー

「子供の教育は狸でも大変なのですね」

「それでも、浅川は水が流れ、両岸には草が茂り、我々に食物を与えてくれます。アフリカのソマリアでは雨が降らず何十万もの人が死に、家畜も死んでいます。我々は幸せです。自然環境の変化に狸は何もできませんが、せめて、人間の作り出す環境の変化、特に残飯の量や種類に左右されない生活を模索していかなければなりません」

どこかの国の大臣に聞かせたいような話になりました。タクシーは病院に着きました。

タクシードライバーとの再会

日ならずして狸のタクシードライバーに会った。

通勤の中央線下りは混んでいる。八王子駅で人混みに押されながら下車するのは大変だ。駅の階段も皆と同じスピードで上らなければならない。34段ある階段も最後の4段は気を抜かないようにしないと、脚の力が抜けているのでよろめいてしまう。改札口にたどり着けばやれやれだ。駅構内は混雑していても自分のペースで歩ける。

エスカレーターを降りてタクシーに乗った。行く先を伝えると、運転手が「また会えましたね。エスカレーターを降りたところからずっと見ていました。お変わりないようですね」

どこかで見たことのある顔だ。少しの間をおいて気が付いた。狸のタクシードライバーだ。「この間は狸の話を聞かせてくれて有り難うございました。コロナの感染者が減って外出する人が増え仕事が忙しくなっていませんか」

「たいしたことは、ありません。感染者が減って安心しているのは首相と都知事でしょうね。ところで、首相が副鼻腔炎の手術を受けたということですが、副鼻腔炎はどんな病気なのですか」

やれやれ、タクシーの中で一寝入りしようと思っていたが、それはかなわないようだ。

「鼻の周囲には幾つかの空洞があり副鼻腔といいます。その中の粘膜が炎症を起こして腫れると鼻詰まりがひどくなり頬が痛くなったり、頭痛がします。耳が聞こえにくくなることもあります。副鼻腔に溜まった鼻水に細菌感染を起こすと黄色い、少し臭い匂いのする鼻水が出るようになります。多分、首相はこの段階で手術をしたのだと思います」

「首相は手術をして何か変わりますかね」