【前回の記事を読む】日々心身の衰えを感じているおじいさん。しかし元日の朝、薬で絶世の美女に大変身!

初夢

電話の声は恐る恐る、お爺さんであることを確かめた上で、どうしたらそんなに若返ることができるのかと聞きました。お爺さんはいきさつを話した上で、よろしかったら薬を1錠差し上げますと言いました。電話が終わるか終わらないうちに鈴木さんはやって来ました。

驚くべきことがありました。隣の鈴木さんにも同じ変化が始まったのです。お爺さんは考えました。これは突然変異ではないのか。突然変異は一定地域の限られた種に発生し合目的的であるとされている。そうだとすれば、吉祥寺だけではなく武蔵野市全体の高齢者に同じ変化が起きるはずだ。そうだ、武蔵野市全体の老人にこの薬の服用を勧めてみよう。

吉祥寺の商店街に出掛けて行くと、いつにも増してものすごい人だかりができました。頃合いや良しと薬の話をすると集まっていた見物人はこぞって薬を買い求めました。

一週間後、吉祥寺の街は着飾った美しい中年の女性で埋まりました。ランチ時のレストランは満員、その他、ラーメン屋を始めとする飲食店も満員、井の頭公園も吉祥寺大通りも映画館も満員になりました。これに目を付けた人手不足に悩む商店街の主人は街を行く女性に声を掛け店員として採用しました。吉祥寺の街は大賑わいになりました。

薬の効き目に目を付けた人の中には胃ろうを付けている自分の父親に試してみました。そうするとどうでしょう。次の日には胃ろうがとれ、3日目には着飾って化粧をして街に出掛けていきました。同じ変化は認知症や脳梗塞やその他の寝たきり老人にも生じました。

老人に費やされていた医療費は大幅に削減され国や地方自治体の財源は豊かになりました。

着飾った可愛い女性が街にあふれたことは若い年代層にも影響を与えました。特に若い男性達は盛りの付いた猫状態になり、次から次へと結婚しました。そして子供を作りました。首相はこの薬の効き目が全国に広がれば異次元の少子化対策になると考え、薬の研究のための国家プロジェクトチームを立ち上げました。

日本の前途は良い方向に向かいそうです。

明け方、お爺さんはお婆さんのものすごいくしゃみで目が覚めました。お爺さんは顔をなでてみました。頬はこけ、体を見ると筋肉のない胸にはあばら骨が浮かんでおり尻はだらしなく垂れ下がっていました。世の中がこの初夢のように変われば良いのにと思いました。