【前回の記事を読む】薬の効果で吉祥寺は美人で溢れかえるように――そこから良いことが相次ぎ日本の未来も明るくなるかと思いきや……?

キリストの像

研究会の中に吉田さんという方がいたが、近所の人から、理由は分らないが敬遠されていて、周囲の人との付き合いがない。従って、浩より1歳年下の男の子がいたがアパートの中に遊び友達がいない。吉田さんは浩が自分の子供の遊び相手になってほしいと母に頼んだ。

男の子は晃といった。晃君が通っていた小学校は公立に通っていた浩と違ってお金持ちの子供が通う私立の小学校だったため、近所に友達がいなかったのかもしれない。しかも、晃君の学校は遠いところだった。

アパートには時々、紙芝居屋がやって来た。水飴、塩昆布そして煎餅などを売り、ある程度子供の数がそろうと紙芝居をやった。

娯楽のない時だったので紙芝居は子供達にうけたが、この子供達の集団に晃君の姿はなかった。水飴を始めとする食べ物を晃君の母親が嫌ったのか、あるいは、終戦後であったため子供達の服装は粗末だった。そんなことが晃君を紙芝居から遠ざけたのだろう。

吉田さんから連絡があり決められた日に部屋を訪ねた。見たことのない甘いお菓子をご馳走になった。お茶は緑色をしていた。少し苦かったがおいしかった。浩は徳島県の出身で普段、ほうじ茶を飲むので特別なものと感じた。それから後は男の子同士。おもちゃの刀を振り回し、部屋の中をドタバタ走り回った。吉田さんは笑って見ていた。

次の週は銀座のレストランでオムレツとアイスクリームをご馳走になった。浩はアイスクリームを皿まで食べてしまうのではないかというくらい綺麗に食べた。晃君から少し残せ、下品だと言われた。

不思議なのは、晃君の家はお父さんが不在なことが多い。母親にそのことを訊ねたら、子供には分らないことだけど、あの人はお妾さんなの。このことは他の人に言わないようにと口止めされた。