あるお爺さんの1日
税務署で税金の申告を終えたお爺さんは帰宅のためバスに乗りました。バスは自宅の近くのバス停に止まりました。お爺さんは両足に体重を移し、手すりを持ち、よいしょと腰を持ち上げました。ゆっくりと降車口に向かい、バスを降りようとしました。
下を見た時、地面まで自分の足が届くのかどうか不安になりました。視力が衰えたようです。適当に足を伸ばして無事にバスから降りることができました。このようなことは電車から降りる時にもあり、電車のドアーが開いてもすぐには足が動かないのでいつも足下をよく確かめてからゆっくりと降りるようになっています。
駅の階段を下りるのも大変です。必ず、手すりを持ち、ゆっくり下ります。お爺さんの友人は階段で足を踏み滑らし尻餅をつき、腰椎の圧迫骨折で3ヶ月間コルセットをしていました。朝、起き上がる時痛くて大変だったそうです。
駅の構内も用心しなくてはなりません。お爺さんの友人はスマホを見ながら歩いていた女性に体当たりをされ、後ろに倒れ頭を打ちました。体当たりをした女性は後ろを見ることもせず立ち去りました。CT検査で頭に異常はなかったのですが、頭痛があり3日間の入院を余儀なくされました。
「高齢者にとって世の中は危険に満ちている」とお爺さんは思いました。
歩き始め、横断歩道で信号の変わるのを待ち、渡り始めました。一生懸命歩きましたが、道路を渡り切るのと同時に、信号は青から赤に変わりました。やれやれ世の中はせわしくなったなと思いました。自分の足が遅くなったことも自覚しています。お爺さんは腰に手を当てて体を後ろにそらせ伸びをしました。
目の前の電線にはカラスが5羽、等間隔に並んでカアカアと何か話をしているようです。カラスはお爺さんが横断歩道を渡り切るのを見ていました。渡り終えるとカラス達はほっとしました。転んで骨折すれば、入院、寝たきり、そして認知症になることを心配していたのです。お爺さんはカラスの言葉は分りませんでしたが自分のことが話題になっていると感じています。
歩いていると、塀の上に猫が寝ていました。お爺さんはラッキーと思いました。最近は散歩をしていても町中で猫の姿を見ることがないからです。猫は痩せてところどころ毛が抜けています。自分と同じ様に年を取っていると感じました。