それからしばらくして、

「競技会外検査の対象となるRTPAになった」と母に報告した。

「よかったわね。それだけ認められたということでしょ。でも面倒くさいでしょ。競技会なんて勝てば決勝まで残るし、負けたらすぐ帰ってくるし、予定が立たないのに、どうやって登録するのよ。変なことを選手に要求するのね」やっぱり母は分かっていなかったと思った。

「スマホです。インターネットです。アンチ・ドーピング活動に関わる情報を総合的に管理するweb上のシステムのADAMSというスマホのアプリです。変更になるたび、クリック一つです。お母さん、LINEをしているでしょ。パソコンやスマホのメールもしているでしょ。同じよ」

兄の事故死への疑問

一年余り前、二歳年上の兄、麗央がドイツのF1に出場すると連絡してきた。麗央は妹と違い、小さいときは水を怖がっていて、未だに水泳は得意ではない。

その代わり、自分の名前を漢字で書けるようになるより早く、カートの操縦を覚えたようだ。もちろん自転車も、モーターバイクも乗りものと名のつく物は全て大好きだった。

小学校に入った頃には、自転車でぴょんぴょん跳びながら、道ではないところをまるでロッククライミングでもするように登っていた。回り道をすればきちんとした道があるのに、そちらを通らないで、ぴょんぴょんと跳びはねながら、崖登りをする。

愛莉がまだ物心つくかどうかという頃だった。麗央はいつものように近所の崖を自転車で登り、そして滑り降りるような遊びをしていたらしい。

そして、高いところから転がり落ちて、病院に担ぎ込まれた。母は愛莉を車に乗せて病院に駆けつけ、父も仕事先から飛んでいった。

体中を確認して、医師からの「念のため、今晩一晩泊まっていって下さい」という声を聞いて両親はやっと安心したようだった。