兄の事故死への疑問

愛莉が水泳の強化選手になってからは、殆ど直接会うことができない二人だったが、電話やメールで、子供の頃のままの関係が続いている。麗央がF3の資格を取り、レーサーになると言いだしても、誰も驚かなかった。乱暴な言い方をすれば、F3は野球でいうなら三軍、一番裾野に当たる。

F1に出るには今からいくつもの試験があり、腕を磨かなければならない。そしてやっと一年余り前にF1の資格を取り、イタリアのチームに所属することができた。

イタリアのチームに入れたからといって、すぐに花形選手になれるものではない。人数制限のあるレーサーの一人になれたというにすぎない。F1は決勝の前日に予選が行われる。予選で決勝のグリッド位置が決まる。チームのトップ選手が良い位置を確保するための後押しをするのが、当面の麗央の役目である。

ただ、途中で何かがあればそのときは臨機応変に対応することも求められる。チームが決勝を有利に運ぶためには、自分自身も予選を勝ち抜かなければならない。予選を通過できるかどうかは分からないが、とにかく一つ階段を上った気分だという。

他のレーサーに比べて、年齢も若く、背も低く、童顔で明るい性格の麗央は、レースのとき以外でも仲間やライバルたちに人気だったようだ。

レース場にはレーサーやスタッフしか入れないパドックと呼ばれるところがある。劇場などの控え室に当たるところだ。ここには名のあるレーサーや各チームのオーナー、開発技術者などが、ごく普通に歩いている。お茶を飲んだり軽食をとったりでき、時間待ちやテンションを上げるため、気分を整えるために使える。

麗央はここで柵にもたれたり、椅子に腰掛けたりしながら、自分のチームや他のチームの人たちと写真撮影をし、よくメールで送ってきた。愛莉でも名前を知っているようなトップレーサーとピースサインでミーハーな写真を送ってきたこともある。

彼らと子供のように上気した笑顔で談笑している写真もあった。自分のチームのメカニックの人だろうか、スーツ姿の人やコックピットに入るときのような服を着た人、ジーンズを着た人などが入り交じった写真もあった。

それらの中に青地に白でチーム名やスポンサーのロゴが入ったウエアを着て、同じ服を着た別のレーサーと一緒にお茶を飲んでいる写真があった。