無事入院先を聞き出した。外で待ち伏せする必要がなくなったため、サウナでゆっくりしようと思った。小さい頃はやせ我慢して死にそうになりながらサウナに入っていたけど、今は身体の危機に対応するために必要と感じてサウナに入っているんだよなぁ、とぼんやり考えた。今この瞬間、自分の身体はどれだけ健康なんだろう、逆にどれだけボロボロなんだろうかと、考えても分からないことを暫くの間考えていた。
「よし、コーヒー牛乳を飲んで帰ろう。そして土曜日の午前中に宮さんのお見舞いに行ってみよう」声にならないくらいの声で独り言をいい、サウナ室を出た。
宮さんは意外にも元気そうだった。
「先週からですか?」
「そうなんだよ、持病がちょっと悪化しちゃってね、いやぁ参ったねぇ」
お見舞いに来てもらったことを恐縮しているような顔つきの宮さんは、無理やり笑顔を作っているように見えた。結構身体は辛いのかもしれない。
「この前駅前の銭湯で偶然入院しているという話を聞いたので、急に来ちゃいました。オヤジと一緒に来ようとも思ったんですけど、仕込みがあるので。明日の午前中に行くって言ってました」
「いやいや悪いからいいよぉ、来なくて大丈夫だからってオヤジさんに言っておいてよ」
「言っておきますけど、絶対来ると思いますよ」
宮さんとこんな感じで二人だけでしゃべるなんて、初めてのことだった。持病が何かとか、詳しく聞きたい気持ちもあったが、やめておいた。その代わり、うちのオヤジが見た夢のこととか、息子の自分があの「生姜焼き」を引き継いだ話をした。それを聞いて、宮さんは大きく笑い、そして喜んでくれた。
「早く元気になって、おれの新生『生姜焼き』を食べに来てくださいよ」、と心の底から思っていることを宮さんに伝えた。
それを聞いて宮さんは、精一杯の笑顔と元気な声で「そうだね、早く退院してうちのと一緒に食べに行こうかな」と言った。
しかし宮さんは、その後退院することはなかった。持病というのは嘘で、実は末期がんだったらしい。あの時も身体中が痛くて仕方なかったのかもしれない。
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次回更新は9月5日(木)、11時の予定です。