第4章(最終章)-オヤジのチャーハン-

何かとんでもない秘密を知ってしまっているという後ろめたさから、千葉さんはうちの店には来られなかったのだという。

それをだまって聞いていた楠木さんは、「なに、そんなことで家に閉じこもっていたんかい!?」と言い、大きな声を上げて笑った。

「そんな心配するようなことでもないじゃない、気にしなくても平気だって!」と、千葉さんの気持ちを慮ってか、それともただの楽観主義者の発言か、知り合って間もないこの楠木さんという男性の真意が測りかねた。

「いやでも、家族に一言も言わずに家出してるんですよね、それは心配しちゃいますよね」と、やんわりと、改めてこの件に関する重要な要素を楠木さんの耳に入れた。

「あぁ、家出か、そうだねぇ、ん~家出はちょっとねぇ・・・」と、楠木さんは急にしょんぼりとし、黙ってしまった。

「とにかく、オヤジの家出した理由がこれではっきりしたような気がします。急に自宅まで押しかけてすいませんでした。これで母親も少しは安心すると思うので・・・ありがとうございます」

そう言って千葉さんの自宅を後にした。正直、だいぶ気が楽になった。おそらくオヤジは本当に旅に出たのだろう。そしてしばらく帰らないだろう。一世一代の壮大な長旅になるのだろう。

これを母親に伝えても、自分がいま感じているような安堵感を感じることはないだろう。むしろ、逆効果かもしれない。家族に何も言わず出て行ってしまっている、その理由が長期にわたる旅行でした、なんてあまりにも勝手すぎる。

しかし、少なくとも千葉さんの話を100%信じたとして、何か事故や事件に遭っているわけではないことは分かったわけだ。捜索願は出したままにするつもりだが、であるならば、おそらくオヤジは大丈夫だ。

「ずっと、何十年も週一の休みだけで突っ走ってきたんだもんな・・・」

つい独り言が出てしまった。

「オヤジ、いったいどこを旅してるんだろう」

数知れずオヤジとは酒を一緒に飲んだが、観光地や名所など、行ってみたい場所なんて、そんな類の話は一回もしたことはなかった。心の中では常にいろんなところに行きたいって思いがあったのかもしれないな、と思った。そう考えたら、安心感を越えて、なんだか愉快な気持ちになってきた。

「いつかオヤジと一緒に旅するのもいいかもしれないな」

今度はさっきより大きな独り言が、出てしまっていた。