第2章 -ポークジンジャー-

土曜日、宮さんの葬式にオヤジと母親と三人で行った。オヤジは家を出る時、店のドアに「本日は所用で休みます」とは書かず、「宮さんの葬式に行ってきます」と書いた。

本当は「葬式」と書くのが嫌だったらしく、悩んだ挙句「晴れ舞台」って書こうかな、と小声でぼそっとしゃべったが、それをしっかり母は拾い、「それは止めなって」と言われしょんぼりしながら「葬式」と書いていた。

しめやかに執り行われた知り合いばかりのこじんまりした葬式は、つつがなくすべての工程を終えた。一通り挨拶をして帰るとき、宮さんの奥さんに声を掛けた。

「宮さんの代わりにうちの生姜焼きを食べに来てください」

「ありがとうございます。主人はいつも『あそこの生姜焼きはほんとウマいんだよ、ちょっとしょっぱいけどな』って、口癖のように言っていたんですよ。ホントお世話になりまして・・・」

葬儀で疲れているはずなのに、気丈に振舞い、笑顔で話してくれた。奥さんは殴り込みに来るような雰囲気ではなく、とても優しそうな人だった。

店に戻り遅い時間からの営業を終え、オヤジと店のテーブルで晩酌をしながら、宮さんの奥さんの印象を伝えた。

「そうなんだよ、何度か会ったことあるんだけどな、すごく温和な人なんだよ、しゃべり方なんて特にな・・・。それなのになんで夢の中ではあんなに怒って出てきたんだろうなぁ。それぐらい、ホントに宮さんの身体を心配していたってことなんだろうなぁ」

オヤジはそう言いながら、御猪口を震わせ、涙を流していた。

宮さん用に日本酒を注いでおいた御猪口は、中身が少し減っているように見えた。