第3章 -不安は希望-
「牛すじカレーうどんとシュウマイ3個ね」
「向かいに洋食屋さんが出来てから、なんか新しいお客さんも増えてきたんじゃない?」
常連の宮さんが亡くなってからもう2年が経っていた。その間、ずっとオヤジは一緒に厨房に立ってくれていた。いろいろ自分で考案した新メニューにも難色を示すことなく認めてくれていた。「牛すじカレーうどん」がその代表例だ。
1年前に会社を辞めて以来、うちの店に専念している。定休日の月曜日以外はオヤジはずっと厨房に居てくれたが、自分が店に全力を注ぐようになってからは、定休日以外の平日も一日、二日休んだりもしている。
「年齢もあるし、無理しないでいいから任せなよ」と思い切って言ったことがあった。年齢のことや、自分の実力の問題もあるから「何言ってんだ、まだまだだよ!」と機嫌を損ねるかと思ったが、意外にも「そうだな」としおらしくしていた。少しオヤジの背が縮んだように感じた。
宮さんが亡くなってから、ずっと考えていることがあった。オレはこの店の看板を二代目として背負っていくことになるだろう、おそらくは。今はまだオヤジも元気で、常連の人たちを中心にそこそこお客さんも来てくれてはいる。しかし、あと10年後・・・どうなっているだろうか。
常連の人たちはオヤジと同年代が多い。オヤジに何かあったら、その時は常連の人たちも店に来ている場合ではない、ということは想像に難くない。今から新しいお客さんを呼び込んでおかないと窮地に立たされることになるだろう。そうなると、この店の看板は守れない。