しかし、新しいお客さんを呼べるほど、今のオレには実力はない。「元○○○のシェフが腕を振るう食堂」などというような名文句があればいいのだが・・・。

そう考えた時にふとあることを思い出した。数年前に仕事でホテルのPRの仕事をした時に、そのホテルのシェフと年齢が近かったためか、気が合い連絡先を交換し、一度飲みに行ったことがあった。その時に彼は「独立したい」と考えていることを話していた。

久しぶりに連絡を取ってみることにした。あの時話していたことを覚えているかどうかを確認したうえで、今でも気持ちは変わらないかと聞いてみた。宮下さんは「もちろんです」と言った。

そこからは話が早かった。自分はいまオヤジの食堂を継ぐため、目下修行中であり、もうすぐ会社も辞めて店に専念するつもりでいるということ。新規の客を呼び込むためにこの商店街に新しい何かが欲しいこと。偶然にもはす向かいのテナントが空いていること・・・、などを矢継ぎ早に伝えた。

そして、「有名ホテルの元シェフの店」という触れ込みは、数々の先例を考えてもかなり強いPRになるということ。これに関しては、自分が広告の仕事をしているということもあり、問答無用でその言葉に一定の重みを感じてくれたようだった。

すると、宮下さんはこの話に乗ってきてくれた上で、少し恥ずかしそうに「そしたら、ぼくの新しい店の名前を考えてくれませんか」と言ってきてくれた。

照れ笑いをしながら最初は丁重に断っていたが、何度もお願いされたため、「そしたら、本気で考えるので1日時間をくれませんか」と、猶予をもらった。

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次回更新は9月12日(木)、11時の予定です。

 

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