第2章 -ポークジンジャー-
1ケ月ほど経ち、毎週末オヤジとともに厨房に立つ時間以外を使い試行錯誤して改良を加えた、新「生姜焼き」を披露することになった。メニュー名は「ポークジンジャー」とした。
記念すべき初めての注文をしてくれたのは、オヤジと営業終わりにたまに飲んだりしている常連のヨシさんだ。いままで経験したことのない胸の高まりを感じた。
「ポークジンジャーっていうのはつまり生姜焼きってことなの?」というヨシさんの質問に丁寧に答えながら調理を始めた。
「ただ味薄くなっただけとかだと・・・許さないからねぇ」と満面の笑顔でプレッシャーを掛けてきた。これはビシッと決めないといけない。
改良ポイントは大きく2つある。まず仕込みをやめたこと。やはり「しょっぱい」一番の原因は味が浸み込みすぎることにあるというのは間違いなく、調理する段階で味を付けるやり方に変更したのだ。
そして豚肉をロースから脂身が少なくさっぱりしたヘルシーなヒレに変えたこと(常連さんの高齢化を考慮したのだ)。ボリュームは変えず、値段も据え置いた。新たな名物にするためにコストはあまり考えないことにした。
叩いて伸ばしたヒレ肉に小麦粉をかるくまぶし、すりおろした生姜とりんご、しょうゆ、砂糖、みりんを、玉ねぎと一緒に炒め、最後にざっくりと刻んだ生姜を投入し、やや甘めの日本酒で整えて完成だ。そして付け合わせにはポテトサラダだ。