●第2章-ポークジンジャー-

「しかし似てないねぇ、陵ちゃんは。声はそっくりなんだけどね」

週二で来てくれる常連の張さんがそう言うと、また食堂の中が笑いで包まれた。

忙しく、そして夢中であったせいか、時間が経つのが異常に早いなと感じていた。いつのまにか1年が経っていた。

あれからすぐにオヤジとともに厨房に立つ日々を始めていた。仕事をすぐに辞めることは出来なかったため、週末休みの日に限りではあるが。

気付くと、常連の顔と名前もしっかり覚え、おじさん方の冗談にもこなれた対応を取れるようになっていた。ホントに気さくで面白い常連さんが多いなと思った。自分の仕事で出会う人たちとはまったく違うから余計に面白い。本当の意味で「愉快」な人に今まで出会っていなかったんだなと思わされる。

それにしてもオヤジは厳しい。普段の時のオヤジとは大違いだ。当たり前といえば当たり前だが、その当たり前のように厳しいオヤジを見ていると、カッコいいなと感じる瞬間がある。

創業者として、誰かに教えられる、という経験のないオヤジにとって、誰かに教えるという行為は、いささか戸惑ったのでかないかと勝手に想像した。まだまだ若輩者だが、オレは仕事で少しずつ後輩に仕事を教えたりしつつある。それを踏まえると、オヤジの教え方はすごく雑だし不慣れだなと感じたのだ。

うちの店のメニューで唯一の不出来なものがある。それは生姜焼きだ。なぜならこれだけ異常なほどに「しょっぱい」のだ。これを好んで食べにくる常連の奥さんが、「うちの旦那を殺す気かっ!」と威勢よく殴り込んでくるという夢を見たと言っていたくらいだから、相当だ。そして自覚がある。困ったものだ。

オレはなぜ生姜焼きだけ「しょっぱい」のかを、厨房に入り一緒に調理をするようになるまで知らなかった。理由は単純だった。