序節 古事記の投げかける謎――古事記の秘める数合わせ

Ⅰ「10引く1は9」という数合わせ

以下、古事記引用文中の字句の位置を示すのに、この平古の本文篇の頁数・行数と、現存する最古の写本である真福寺本の行数とを並べた三連数字を用いる。

たとえば200三380と書けば、平古の200頁・3行目であり真福寺本の中巻380行目であることを示す。分注の場合は、150⑦118のように平古の行数に〇をつけて示す(分注の場合のみ平古の行数を算用数字とする)。

真福寺本の行数については、上巻・中巻・下巻のいずれであるかを示さねばならないが、平古の頁数によって推測できるので略す。

平古の9頁以降に上巻、127頁以降に中巻、267頁以降に下巻がある。分注は述べた通りすべて〈 〉に括って引用する。引用文中の拙注は、これも述べた通り《 》で括る。

本文の校訂には真福寺本と鈴鹿登本(兼永筆本)をともに底本とするが、真福寺本と鈴鹿登本とで文字が異なる場合は「柝/折」のように/の前に真福寺本、後に鈴鹿登本の文字を記して差異を明示した。

どちらかが空字である場合、たとえば真福寺本が空字、鈴鹿登本に「之」字があれば、「(/之)」のように示した。両本以外の候補文字がある場合には、例えば「殿/【波】」のように、両本以外の候補文字を【 】に括って示した。

両本共に欠字でありこれを補う写本のある場合は「上件羽山【戸神】之子」のように示した。

鈴鹿登本はいわゆる卜部系諸本のなかでは最も古い写本であり、古事記原本の文字の原形を求めようとするとき、最古の写本であり国宝とされている真福寺本とこの鈴鹿登本とは双璧をなす写本である。

古事記の原文字を求めるためには、ほとんどの場合この両者を比較すれば十分である(両本以外の古写本については、

『諸本集成 古事記』注1を参照した)。

まずⅠ「10引く 1 は 9 」という数合わせについて。

Ⅰ― 1 作池記事の10例は5天皇段ごとに次のように配置されている(「 」内に原文を示した)。

               崇神天皇段 2 池            依網(よさみノ)池

      輕之酒折(かるのさかをりノ)池

「又是之御世、作依網池、亦作輕之酒柝/折池也」(177四・五255・256)

垂仁天皇段 3 池         血沼(ちぬノ)池

                             侠山(さやまノ)池

                             日下之髙津(くさかのたかつノ)池

「次印色入日子命者、作血沼池、又作侠/狭山池、又作日下之髙津池」

                        (180五・六271)

景行天皇段 1 池      坂手(さかてノ)池

              「又作坂手池、即竹植其堤也」(200三380)

応神天皇段 2 池      釼(つるぎノ)池

                                「此之御世、……亦作釼池」(250一634)           

          百済(くだらノ)池

        「是以建内宿祢命引率、爲渡之堤池、而作百済池」(250三635)

仁徳天皇段 2 池   丸迩(わにノ)池

         依網池 「又作丸迩池・依網池」(269六15)