「分かりました。しかし、これだけはお伝え下さい。松葉工業は都城市に支店を置いている全ての銀行から、過去に何度も取引をしてくれ、割引だけでもよいからと言われてきたのを全て断って、鹿児島第一銀行一本で今日まできた、ということを強調しておいて下さい」
「そう伝えます」
支店長は、下を向いたまま、オウム返しに言った。
「支店長、すみません。東京からお客さんがみえる時間ですので、これで失礼します。くれぐれもよろしくお願いします」
松葉は、取り敢えずお礼を言って立ち上がった。支店長の隣でメモを取っていた古賀も、慌てて立ち上がりドアを開けた。
松葉は、もう一度、支店長に、よろしくと言って駐車場へ向かった。駐車場の出口のところで、椅子に腰を下ろした平川が、ニコニコしてこちらを見ていた。近づくと「松葉社長さん、ご苦労さんです」と平川が言った。
何がご苦労さんなのか……。平川が軽い気持ちで言ったのだったらいいが、少々松葉には気になった。
まさか、手形の割引を拒否されていることなど、平川が知り得る筈もない、と松葉は思い直したが、平川は地獄耳だということをいつか聞いたことがあった。
【前回の記事を読む】メイン銀行の顔ともいえる駐車場係。「たいへんですね」と声を掛けられ、いつも通り挨拶を返すも内心は複雑で…
次回更新は8月27日(火)、8時の予定です。