第3章 貸し渋り
山下名誉教授来社
もう10時になろうとしていた。山下名誉教授はお着きだろうか、松葉は気になった。
車に乗った松葉は、携帯電話からアルミ鋳物工場に電話を入れてみた。よかった、まだお着きではない。安堵感が、じわじわと体の隅々にまで染み渡ってきた。
後ろ向きの仕事と前向きの仕事との狭間で、気が滅入ってしまいそうになった自分に気合いを入れるようにして、胸を2、3度叩いた。よし! これでよし! 自分を奮い立たせた。
よかった! 間に合ってよかった! 先生を工場でお迎えできる。松葉はアルミ鋳物工場へと急いだ。
先生に工場を見て頂いて、確信を持ってわが社をアルミ鋳物メーカー推薦リストに入れてもらいたい、どうしてでも、そうしてもらいたいと思っていた。できればわが社、1社を推薦してもらいたいと。
東京支店のみんなも祈るような気持ちで、今回の工場視察を期待と不安を持ちながら見守っているに違いない。みんなの期待に応えなければ、と松葉は少々興奮気味だった。
松葉が工場に着いて程なくして、先生をお迎えに行った車2台が工場の事務所の玄関前に到着した。お茶の準備をしていた女子社員を含め、管理部門の社員全員が玄関前に出て来た。
この日のために、リハーサルを何度も重ねた、と西工場長が言っていたが、社員が2列に整然と並んでお迎えしているのを見て、松葉は社員のみんなの気迫を感じ取った。
先生をはじめ車2台に分乗した5名の方たちを、応接間に案内した。
松葉は先生に、先ずは椅子にお掛け頂くように、椅子を自ら引いてお勧めした。そして、初めてお会いする4名の方々に名刺を差し出した。竹之下、西も製造課長の船山もかしこまった表情をしながら名刺交換をした。