第3章 貸し渋り
手形割引拒否
松葉の机の上の携帯が鳴った。
「はい、松葉です」
「社長さん、すみません、遅くなりました、中村です。手形は割らせてもらいます。ただ、お願いがあります。明日お出で頂けませんか。早い方がよいですが」
「分かりました。明日9時に伺います」と言って松葉は携帯を置いた。
そして、竹之下に向って言った。
「竹之下、割引は実行するとのことだ。明日の朝、出てこいだと。お願いがあるそうだ。やはり条件を突きつけるつもりだろうな」
「社長、私も銀行に連れて行って欲しいですが、明日、私は東京の山下教授を空港まで出迎えに行かなければなりません」
「そうだったな、山下名誉教授が見えることになっていたね。9時5分宮崎着だったな」
東大の名誉教授である山下先生が主宰する設計事務所の所員の方と工場視察に見えることになっていた。
工場の製造能力を確認してもらえば、山下先生の設計中の博物館にわが社のアルミ鋳物が外装に採用されるかもしれない、と東京支店長から連絡がきていた。
そのことを聞いたとき、松葉は支店長に言った。
これは、松葉工業にとって大きな飛躍に繋がる大事な仕事だ。山下名誉教授の仕事に参加できたならば、一流のお墨付きをもらったようなものだ。