松葉は、9年目の18万km走行している古い車で山下名誉教授をお迎えするのを、たいへん申し訳なく思った。また、竹之下にも肩身の狭い思いをさせるなぁ、と可哀そうな気がした。

松葉は翌朝9時前に、鹿児島第一銀行の駐車場の門の前に着いた。松葉の車を見た、駐車場係の平川がすぐ門を開いてくれた。

「おはようございます」

平川は、愛想よく大きな声で挨拶した。彼はもう10年以上駐車場係をしている。ここに勤める前は、他の銀行で集金の仕事をしていたらしい。

この街の会社という会社について熟知していると、鹿児島第一銀行の行員から聞いたことがあった。社長の家族構成まで知っているとか。お嫁さん探しまで頼まれたことがあったらしい。

今では、すっかり鹿児島第一銀行の顔になっている。

松葉は、いつもの通り、丁寧に挨拶を返した。

「平川さん、早くからすみませんね」

「社長さん、朝早くからたいへんですね」

たいへんですね??? たいへん??? 平川は知っているのだろうか、松葉が返済を迫られていることを。駐車場係のおじさんまでもが知っていると理解すべきか、平川だから知っていると思うべきか、松葉は迷った。

「うん、元気に頑張っていますよ」

松葉は作り笑いをしながら応えた。

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次回更新は8月26日(月)、8時の予定です。

 

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