松葉工業としては、ここで山下先生の評価を頂き、アルミ鋳物業界のトップとしての地位を築きたいところだ。それだけに、こんな大事な訪問を松葉に忘れさせるこの銀行とのやり取りを、竹之下は実に苦々しく思ったに違いない。
「社長、残念です。こんな大事なときに、社長が山下先生の仕事に集中できないのが残念です。私に代理が務まればよいのですが、先生の応対は社長でなければだめです。社長のアルミ鋳物に懸ける情熱を語って頂くことが一番だと思います。支店長との話はどれぐらい掛かりますか」
「1時間もかからないだろう。10時半には工場に行けると思うよ。それまで山下先生を頼むよ。工場長には準備をしっかりやるように言っといたから」
「分かりました。鹿児島第一に足を引っ張られているような気がしてならないですね、こんな大事なときに。松葉工業のやっている仕事を本当に理解しようとしていませんね、この銀行は、今の数字だけを見て、とやかく言いすぎですよ。過去、現在そしてこれからを見て欲しいですよ」
「よし、分かった。それでは明日は頼むよ」
「社長、教授のお迎えの車はどうしましょうか。マイクロは用意しますが、教授用に会長のベンツは借りられませんか?」
「無理だろう」
「どうしてですか」
「また、ゆっくり話すこともあるだろう。今日のところは俺の車を使ってくれ。古くなった車だけど慎重に運転してくれよ」