俳句・短歌 歴史・地理 歌集 日本列島 2020.08.07 歌集「秋津島逍遥」より三首 歌集 秋津島逍遥 【第3回】 松下 正樹 “忘れえぬ旅をまたひとつ三十一文字に封印す” ――日本の面白さに旅装を解く暇もない 最果ての無人駅から、南の島の潮の香りまで、まだ見ぬ土地に想いは募る。 尽きせぬ思いが豊かな旅情を誘う、味わい深き歌の数々を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 流氷の海のくらさにひらひらと 赤く光らせクリオネは舞ふ 沖とほく見えし流氷天つ日に 白くかがやき船近づけり *天つ日 太陽。 一望にひろがる冬晴の流氷原 まばゆき光りをはばむものなく
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『虹色の魂』 【新連載】 青居 蒼空 「光は俺に似て二枚目だなあ」「うん、お父さんも僕に似てかっこいいよ」 青い空を眺めていると、いつの間にか僕は、雲の上で浮いていた。見下ろすと、真っ青な海が広がっている。空も海も綺麗なのに、急に不安になった。「お母さん」僕は呟き、母を捜そうとその場を離れようとするが体がいうことを聞かず、ただ浮いているだけだった。「お母さん!」今度は大きな声で母を呼んだ。すると突然、空が赤くなり、僕は真っ逆さまに海に向かって落下した。体中に針が刺さったような感覚を覚える。痛みはないが…