「いや、我々も困っています。今までお世話になった松葉工業さんにとても言えることではない、と我々も分かっています。しかし、本部が、割引は今後できないと言ってきているのです。困ったものです」

「どうしてですか。何が理由ですか」

「栃木に造られた工場が計画通りいっていない、ということがその判断になったかと、思います」

「計画通りいっていない、だからできない、と判断される前に、先ずは我々に説明を求めるべきではないですか」

「そうですね」

と言いながら、支店長は困った顔をした。支店長の困った顔とは裏腹に、支店に入ってきた雰囲気から、既に方針は固まっていて、行員に相当浸透している、と松葉は肌で感じた。

「支店長さん、今日は突然伺いまして、すみません。私どもの説明を聞いて頂ける機会を作って頂けませんか。今日は資料も持ってきていませんし……支店長さん、支店以外のところから情報を発している者がいませんか。それを本部が鵜呑みにしているということはありませんか。どうも理解に苦しみますね、今回のご判断は」

松葉が言い終わるか、終わらないうちに、竹之下が怒った顔をして支店長に畳み掛けるようにして言った。

「支店長さん! わが社の関東工場に御行のどなたか見学に来られて、状況を確認されたことはありましたか。釈迦に説法かもしれませんが、この頃現場主義がよく唱えられていますよね。実際、目でご確認頂きたいのですが」

「確かに、私どもの方から伺ったりはしておりません。しかし、本部もそれなりに事実を掴んでいたのではないかと思います」

支店長は苦し紛れに応えた。

「事実! どんな事実ですか。支店長!」

竹之下が声を荒げて問い質した。

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次回更新は8月23日(金)、8時の予定です。

 

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