第3章 貸し渋り

手形割引拒否

松葉と竹之下は、昼食を取って鹿児島第一銀行に向かった。

「支店長いらっしゃいますか」

竹之下は融資担当のカウンターのところに行って、いつになく丁寧に尋ねた。

「失礼ですけど、どちら様でしょうか」

「松葉工業の竹之下と言います」

社長の松葉は黙って後ろに立っていた。

「今、席を外しているみたいです」

若い行員は、そっけなく応えた。

顔見知りの行員もいるが、若い新米の行員に任せっ放しにして、こちらを見ようともしなかった。

「そうですか。待たせて頂けますか」

竹之下が言った。

「どうぞ」とカウンターの前の椅子を指差した。

そのとき、竹之下の眉が釣り上がりそうなのが、松葉にも分かった。

「竹之下、ここで待たせてもらおう」

松葉は穏やかに言った。

しばらくして、中村支店長が帰ってきたのが見えた。松葉はすぐに立ち上がった。

松葉の顔を見るなり、支店長は今までに見たこともない難しい顔をして、「松葉社長さん、お越しでしたか、これは失礼いたしました。こちらへどうぞ」と、支店長応接室に案内した。同時に融資担当の古賀も入ってきた。

今まで、カウンターの前の椅子などで待たされたことなどなかった。そんなことを知っている竹之下には、我慢ならないことだったに違いない。

支店長も、玄関先で待たせるなど今までないことだったことを知っている筈だが、そのことには触れようともしなかった。

松葉は、そんなことは意に介さない振りをして、敢えて平静を装って応接室に入った。

2人は勧められてからソファーに座った。

いつもは、松葉は勧められる前に座っていた。今日は敢えて勧められるのを待っていた。

一呼吸置いて、松葉は口を開いた。

「支店長さん、割引ができないということですが、本当ですか」