第3章 貸し渋り
手形割引拒否
松葉は、慌てて竹之下の袖を引いた。
「支店長さん、以前お金は企業の血液だ、と言われたことがありましたね。今、鹿児島第一銀行はその血液を止めよう、いや抜こうとしているのですよ。医者が患者の検査もしないまま、自分の判断だけで、血液を止めるどころか、血液を抜くに等しいことをしようとしているのですよ。そんな医者がどこにいますか。
鹿児島第一銀行は、地方銀行として地域経済に大きな役割を果たしていきたい、と御行の頭取が新年の挨拶で述べておられたのを覚えています。大きな役割とは一体何ですか。実態を知らずして、どんな貢献を果たし得ますか。
地域医療に貢献しようとしている医者が、診察もなく血液を止めることなどするでしょうか。そんなことってあり得ないことでしょう。急に割引ができないということは、血液の循環を止めるということですから、企業の息の根を止めるに等しいということですよ。
いいですか、支店長さん! 我々の企業は法人です。法人の息を止めてしまうということは、人の命をも奪い取るに等しいことです。そんなことをしてよいのですか。そんなことができるのですか。生殺与奪の権利を握ったかのように、それを振りかざしておられるように思えてなりません」
松葉は一気に、そして最後は問い詰めるように支店長に迫った。
「分かりました。もう一度本部と掛け合ってみましょう」と支店長は応えた。
「支店長さん、明後日の手形の割引がありますが、その件はどうなります」
竹之下が真っ赤な顔をして聞いた。
「分かっています。そのことは今日の夕方にはお返事します。今後のことについてもできるだけ早くご返事します。何とか私も最善を尽くしたいと思っています」
支店長は申し訳なそうに言った。
「分かりました。関東工場の件も含めて、私どもの実情を本部の方もご理解頂けますようよろしくおっしゃって下さい。今まで同様のお取引をして頂けるようよろしくお願いします。
いいですか、松葉工業は鹿児島第一銀行としか取引してこなかったのですよ。関東工場への6行協調融資は全て御行の指示に従って行ってきたということを、しっかり肝に命じておいて下さい。
基本的に、わが社は御行一行と取引してきました。そして、お互いの発展のために尽くしてきました。このことは、御行の歴代の支店長さん、特に現会長さんはよくご存じの筈です」
松葉は、今までの取引のことを思い起こしてもらいたい、という気持ちを込めて話した。そして、その場を辞した。