俳句・短歌 四季 歌集 2020.08.06 歌集「旅のしらべ・四季を詠う」より三首 歌集 旅のしらべ 四季を詠う 【第2回】 松下 正樹 季節に誘われ土地を巡る尊きいのちを三十一字に込める 最北の地で懸命に生きるウトウ、渚を目指していっせいに駆ける子亀……曇りなき目で見つめたいのちの輝きを綴る短歌集を連載にてお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 啓蟄はよき日和なり菜園に 人いでて鍬を打ちはじめたり 秋蒔の菜種は冬を越して咲き 黄の花むらにわがこころ寄る いっせいに萌黄に芽ぶく里山に 入り来て仰ぐうるはしきかな
小説 『アイアムハウス』 【新連載】 由野 寿和 静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた 午前十一時。サイレンを鳴らさず、車両は静岡県藤市十燈荘(じゅっとうそう)に到着した。静岡中央市にある県警本部から十燈荘までは、藤湖をぐるっと大回りして藤市経由でトンネルを通り、小山を登ることになる。藤湖を見下ろす高級住宅街、十燈荘は、土曜の昼だが活気はない。既に外部への交通規制が敷かれているとはいえ、不気味に静まり返っている。ここで殺人事件があったことを、住民達が知っている気配はなかった。その家…
小説 『標本室の男』 【第28回】 均埜 権兵衛 この広い世の中には一人くらい自分を受け容れてくれる人がいるだろう。そう考えて自らを慰めた。 周りには名も知らぬ黄色の花が咲き、その先に満々と水を湛えたダムが見えていた。そしてさらに向こうには両翼に山脈が延びている。振り返ると背後にも山並みが聳え、本当に見渡す限りの山だった。遠くから車の音が聞こえてきた。どこを走っているのかは判らないが、その音で一日の始まったことを感じた。骸骨は少しぼんやりしていた。もう少しここにいたいような気がした。一瞬このままここで暮らしてみようかとも考えた。どこへ…